大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成2年(あ)143号 決定 1993年1月29日

本籍

茨城県鹿島郡鹿島町大字平井一番地の六八

住居

同 鹿島郡鹿島町高天原一丁目六番九号

飲食店経営

伊藤義克

昭和二一年一二月二九日生

本籍

茨城県鹿島郡神栖町大字平泉二七九七番地

住居

同 鹿島郡神栖町大字平泉二五〇五番地

会社員

土渕孝次郎

昭和一五年三月一日生

本籍

茨城県稲敷郡東村大字上之島六五一番地

住居

同 稲敷郡東村大字上之島堤外三〇四四番地

飲食店経営

坂本忠男

昭和一九年四月二二日生

本籍

茨城県鹿島郡鹿島町大字泉川一六六一番地の七

住居

同 鹿島郡鹿島町大字宮中二三三三番地の五五

遊技場経営

河野義郎

昭和五年六月一日生

右伊藤義克に対する強要、公正証書原本不実記載、同行使、常習賭博、恐喝、所得税法違反、土渕孝次郎に対する強要、公正証書原本不実記載、同行使、常習賭博、恐喝、坂本忠男に対する強要、恐喝、河野義郎に対する恐喝各被告事件について、平成元年一二月一三日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人伊藤義克の弁護人金子治男、同石井春水の上告趣意は、違憲をいう点を含め、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人土渕孝次郎、同坂本忠男の弁護人金子治男の上告趣意は、違憲をいう点を含め、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人河野義郎の弁護人田村徹の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

○ 上告趣意補充書

被告人 伊藤義克

右の者に対する御庁平成二年(あ)第一四三号恐喝等上告被告事件について、弁護人石井春水、同金子治男提出の平成二年五月二五日付上告趣意を左記のとおり補充する。

平成四年六月一日

弁護人 桜井勇

最高裁判所第二小法廷 御中

第一 原判決は強要、恐喝罪について著しい審理不尽、事実誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものがある。以下その理由について述べる。

第二 理由

一、被告人伊藤と秋山武久は昭和五四年頃、大塚康男を通して知り合い、その際伊藤は秋山から大塚が借金の返済に窮しているので助けてやって欲しいと言われ、スロットマシーンゲーム店を伊藤、秋山で共同出資し、開設し、大塚に営業させ、その利益を三等分して配分していた。

その後ゲーム店に変え、ポーカーゲーム喫茶の経営を始めたが、伊藤と秋山の共同経営の事実を秘匿するため、両名が共同出資し、株式会社「ワールド通商」を設立し、やはりその利益を伊藤、秋山、大塚の三名で三等分していた。この三名の関係は昭和五八年一二月頃まで続いていた。

さらにその後伊藤、秋山は大塚を経営から外し宮内実を共同経営の一人に加え、大塚のときと同様利益を三等分していた。

その後に伊藤、秋山は千葉県香取郡東庄町にパチンコ店「チャレンジャー」を開店し河野義郎を加えた三人で利益を三等分していた。

二、その間伊藤、秋山は税務対策上、利益を隠匿したりまた隠匿した利益を用いて不動産に投資したりし、莫大な利益を得たものである。

このように伊藤、秋山両名の関係は昭和六〇年三月二〇日頃まで五年余りの長きに亘って続いたものである。

原判決によると昭和六〇年三月二〇日頃、伊藤家の新築祝の祝儀集の賭博を開帳した際、一旦会場に顔を出した秋山および宮内が賭博開始前に姿を消したことに伊藤が立腹し、秋山、宮内をポーカーゲーム喫茶やパチンコ店の経営から排除し、また秋山との不動産の共有関係を解消しようと決意したと認定している。

三、しかし伊藤のこの決意は極めて短絡的で経験則上肯認し難いものがある。

伊藤、秋山間で営々と築き上げた資産関係、しかも表ざたにできない関係を祝儀賭博に参加しなかったからと言うだけでぶち壊すことができるだろうか。また伊藤、秋山および宮内は利益共同体である。利益共同体の者から所謂「てら銭」を稼げなかったからといって、五年有余も付合っていた者を激怒するだろうか。また伊藤が仮に激怒したからといって、秋山が畏怖するだろうか。極めて疑問である。秋山自身地元では強面で通っており、伊藤が怒った位で、ひるむ人間ではない。むしろ伊藤より冷静沈着な性格の持主で経済面においては伊藤を上廻る知能を有している者である。伊藤が怒鳴り畏怖させようとすれば「それなら出る所へ出よう」の一言で反撃できる器量もあるし、伊藤が明らかにされては困る弱点、秘密も握っていた。

四、秋山は伊藤と決別する機会をうかがっていたのである。その理由は暴力団の力を背景に仕事を続けるには限界があること、五年有余にわたる伊藤との付合いで、相当な蓄財ができ、むしろ地元で伊藤と同一視されるのを嫌がっていたのである。伊藤に金融を共同でやろうと誘われたが、いざこざに組員を使うのがいやで断ったことからも秋山が伊藤から遠ざかろうとしていた事実が認められるのである。

五、そこで秋山は、なんとか自分に有利な条件で伊藤との付合いを断ち切ることに苦慮していた。有利な条件とは共有土地、パチンコ店の持分を有利に評価し、その対価を取得することである。しかし秋山は数億円(一説には三〇億円)にのぼる蓄財を伊藤の保護下でしたため、正面切って伊藤に自分の真意を伝えることができなかった。

そのため秋山は宮内を代理人として表面に立て、自分は身を隠していた方が有利に事が運ぶと考え、これを実行した。伊藤は秋山が姿を画したため困惑し、かつ激怒したことは当然である。伊藤は秋山との共同事業のために借り入れた債務を保証していたからである。伊藤が宮内を通じて、秋山に会いたいとあせったのは当然の帰結である。秋山は伊藤があせればあせる程、有利な条件で伊藤との関係が清算できると考え、伊藤と会うのを回避した。

六、ところが思わぬ出来事が発生した。秋山の経営する平和商事株式会社の事務所にトラックが突っ込み事務所が壊された事件が発生したのである。秋山はこの事件を伊藤が指示したものと考え、帰宅した。しかしこのトラック事件はいまだ解決していない。原審が伊藤の恐喝強要を認定した背後にはこのトラック事件は伊藤の指示によるものと暗黙に認定しているものとおもわれるが、重大な事実誤認である。

七、近時の科学搜査によれば一片の塗料でその車両を特定できると言われているが、何故か警察側はこのトラック事件の真相究明をしない。伊藤の言葉として全面降伏という言葉が用いられているが、秋山が伊藤に唯一畏怖したとすればこのトラック事件だけである。この事件を解明しない限り原審判決は審理不尽であり、それがため重大な事実誤認がある。

その結果著しい量刑不当にもつながり、原審判決を破棄しなければ正義に反することになる。

以上第一項から第五項に述べた事実は弁護側の証人申請がすべて却下されたため、弁護側としては立証できず、従って証拠がないが第一項から第五項に述べた事実を前提とすると、弁護人石井春水、同金子治男提出の平成二年五月二五日付上告趣意書記載の主張が首肯されるに至るのである。

御庁において原審破棄、差戻しの決定を得たく、本書を提出するに至った次第である。

以上

平成二年(あ)第一四三号

上告趣意書

上告人 伊藤義克

同 土渕孝次郎

同 坂本忠男

右の者に対する恐喝等上告被告事件に付、左記の通り上告趣意書を提出する。

平成二年五月二五日

右上告人弁護人 石井春水

同 金子治男

最高裁判所第二小法廷 御中

第一、控訴審において弁護人の申請した証拠申請をすべて却下した(ただし伊藤の所得税法違反についてのみ取調べた)事は違法第十三条の法の適正手続違反である。又それに基く重大な事実誤認を生じている。(刑訴法第四〇五条)

一、弁護人は恐喝罪の無罪を主張していたがその有力な証人として被害者秋山武久、同宮内實の証人取調べを申請した(平成元年一一年一三日付東京高等裁判所宛)が同裁判所はこれを却下し恐喝罪について何等の証拠調べをしていない。

しかし特に秋山武久については第一審判決後、控訴審おいて審理中、秋山武久自ら東京高等裁判所第一刑事部裁判長宛に手紙の形で陳述書が送付されていることが後日明らかとなった。

弁護人が閲覧したところ、同裁判記録の雑記録として綴られており、その内容は恐喝事件についての自供的な陳述を内容とするものであった。

しかも、その内容は原審(水戸地方裁判所)の認定と異なったものであり、動機、途中経過、因果関係の有無のすべての面において原審認定と異なるものであった。

二、秋山の右陳述は第一審判決後に生じた証人の心理的事実であり、原審においては取調べる事の出来なかった証拠と言うべきものである(第一審判決後、今までの証言、供述が誤解に基く推理による証言等である事が判明した)当然、控訴審としては第一審判決後に生じた事実として、その内容が原審認定の判示事実に重大な影響を及ぼすものと思われる場合これを取り調べるべき義務を負うものである。

その取り調べは裁量的なものではなく国民に対する裁判所の義務として考えるべきものである。

三、そこで右秋山の陳述書が原審判示事実を覆す内容であるか否かを検討する(裁判所としては単に原審判示事実を覆す可能性があると思料される場合にはこれを広く取調べる義務があると考えるべきである)

判示事実と秋山の陳述の対照表

○身を隠した理由

判示……同人が右のような行動にでたのは判示のような身の危険を感じたため(二八丁)(七丁)

陳述書……伊藤さんが恐ろしいと言うのではない。伊藤さんの島内で賭博など利益を上げて総長の名前を利用させてもらっているので…面と向かって話すと断れなくなってしまうと思ったからです。

○身を隠すことの利害関係…不自然性

判示……自宅を離れて長期間身を隠すと言うことはとうてい考えられない(二六丁)

陳述書……第三者を入れて話した方がいい。パチンコ店や土地のことなどその清算をするには私は身を隠しておいた方がいい。

自分の事業は父や弟がやっているので障害はない。

○一億四〇〇〇万円の支払いの意志

判示……伊藤は一億四〇〇〇万円の支払う意志をなくしそのころ土渕、坂本に対し「パチンコ店はつぶすしかない、秋山には一銭も払わない」といい

陳述書……ところが判決後金子弁護士と会って話していると大変な誤解があったことに気がついた。それは伊藤が一億四〇〇〇万円の支払う意思があったこと。……私が逃げている間、宮内さんから「パチンコ店は秋山がやれ」と言っている(伊藤)と言われたのに私は伊藤を誤解して信じていなかった。しかしそれは私の思い違いであった。

この誤解がこの事件のもととなった。

伊藤が一億四〇〇〇万円の融資決定をうけていたと言う事は搜査段階でも公判でも誰からも知らされていなかった。

○秋山が恐ろしいと思ったこと

判示……三月二四日夜土渕から「パチンコ店は降りてもらうから今から行くから待っていろ」(七丁)同月二二日河野宅で伊藤から「世間では俺とお前の仲は絶対と思っているがそうはいかないんだ」(伊藤)

「てめえ俺をなめんじゃない」(坂本)

同月二四日石岡信用金庫神栖支店において「大事な話しをしているのに……俺を馬鹿にするな」(伊藤)(一二丁)

陳述書……私は恐ろしいと思ったのはトラックが家に突っ込んでこわされたことです。

等々…判示事実と陳述書は全面的に内容が異なっている。しかも陳述書は内容も一貫しており矛盾点もない。

四、右の通り判示と相違する重要な内容の陳述書が存在しており、それか裁判長に対する陳述書という形で存在が明らかな場合、これを取調べるべきか否かの自由裁量の問題ではなく取調べる義務が生じている段階に到っていると言うべきである。(憲法第一三条違反)原審では事後審という理由からか秋山の取調べを拒否してしまったが、その取調べに過大の時間を要する訳ではなく、且第一審判決後の被害者の自らの「誤解の発見」及び、それに基づく「従前の供述の内容との間の違いの発見」を招いていたと言う新事実の発生という事の重大性、等を考えれば当然取調べるべき義務が存在したと言える。

五、近時の控訴審は「事後審」そのものを貫くことに心を配りすぎ、その為に実体真実の発見という事が失われて来ていると思われてならない。

第二、事実誤認(刑事訴訟法第四一一条三項による審査の要請。)

一、(一)坂本忠男の無罪について

上告人全員について無罪の主張をしているが中でも坂本忠男については、有罪とする根拠が最も少ないと思われる。

坂本については控訴趣意書において整理して主張されているので再検討していただきたい。

弁護人の主張は右控訴趣意書に書かれている通りなのであるが、控訴審は弁護人の主張を正しく理解していないと思われるので、ここでは控訴審の判示文に対する反論のみを書くことにする。

(二)控訴審判決書第二一丁において

「右」二二日に被告人河野方に向う自動車の中で被告人伊藤から秋山がようやく「全面降伏」応じるようになったらしいのでこれから会う旨説明され、暗に必要な場合の協力を求められた際、被告人伊藤の意向に従って恐喝の犯行に加担することを決意したものと認められるから………恐喝についての共謀がなかったとはいえない。」

と判示している。

しかし右の認定は何等の証拠が存在していないばかりか、常識的にも無理な推論であると言える。

即ち「秋山が全面降伏を決めた」という事を、河野から伊藤に連絡があったのであれば、何も全面降伏した男をさらに脅す事を協力する必要はない。

又、これから伊藤が秋山と会うについて「暗に必要な場合協力を求められた際、それに、加担する事を決意する」という事の必要性は全くない。

伊藤は総長であり秋山と伊藤が直接対面して話す場面において伊藤は坂本に変って脅かしてもらう必要は全く無いし、まして全面降伏を申し出ている男に対し、その者をさらに脅かすという場面を想定する事は有り得ないことである。

しかも「暗に共謀した」と言う事自体無責任な表現である。

あり得ない事を想定して「暗に共謀する」と言っているものである。

自動車の中の共謀と言う事は、まったくの創作である。

常識的に見て、其の後の河野宅での現場共謀と言うのなら、あり得る話であるが、本件では河野宅における伊藤と秋山の話は終始なごやかな内容の話し合であった。

その為坂本が突然秋山に大声を出した事が、伊藤と秋山の話の流れから外れてしまっているので、坂本と、伊藤の現場の共謀を認定する事は無理と判断したものであろう、

河野宅における伊藤、秋山の話は 伊藤「「お前どこへ行っていたのか」

秋山「ちょっと静養に行っていました」と言う程度の話で具体的な話はなく顔を見せ合ったと言うものである。

そんな内容の無い話合いの中で突然坂本が、これ又内容の無い大声を出して「お前なめんじゃないよ」と言ったとしても恐喝につながる関連性は無いのである。

判決文によると 「伊藤から具体的な指示こそなかったものの恐喝の犯行をより確実にする為には秋山を脅す必要があると判断し右犯行に加担する意思で………云々と述べている。

この段階で全面降伏をして河野と秋山間で話が付いている段階になってしかも伊藤が其の事に何等の言葉も出していないのに、坂本が何故に今さら秋山を脅す必要があると言うのか私は理解出来ない。

判示は「より犯行を確実にする為」と言っているが、そんな必要性が感じられる状況は皆無である。

右判決文は誤った創作文としか言い様がない。

(三)原審及び控訴審判決はこれを是認するとすれば

「坂本はヤクザ者である、ヤクザ者は少々証拠が足りなくても有罪としても良ろしい。」という前提がある場合のみである。

原控訴審判決書を見ると坂本についての記述が最も最後になり内容的にも詳しく審理したと思えない、最も無罪に近いのは坂本であり裁判所も最も説明をすべきところであった。

坂本は実刑判決でありしかも未決拘留という形で異例の服役を終えている者であるから特に詳しい審査を求めたいのである。

坂本については、証拠に基かない推察と創作による判決であると断言うる。

二、(一)伊藤義克についての事実誤認

六月二二日坂本と共謀のない事及び当日の坂本が、秋山に対して大声を出したことが伊藤の恐喝の手段でない事は、伊藤の訴訟趣意書及び前記坂本に関し述べた一の通りである。

河野との共謀の有無、同月二四日の石岡信用金庫において伊藤が大声を出した事等についても控訴趣意書で述べた通りである。

(二)控訴審において右弁護人の控訴趣意書の主張を退けた点について反論する。

控訴審判決文は

(イ)「被告人坂本は六月二二日に被告人伊藤等の恐喝の意図を知った上でこれに協力し、秋山を怖がらせて本件土地持分の登記手続をスムーズに進めさせる為に怒鳴ったものであると認められるし、同日の伊藤の発言は、秋山を教え論すような内容を含むとはいえ、かなり威圧的な口調であり、被告人坂本の怒号と同じ意図にもとづく秋山の脅迫と認められる」と判示している。(六丁)

しかし、右認定については前記坂本についてのべた通りの反論ができる。

(ロ)同判決文は

「石岡信用金庫神栖支店での発言は全面降伏」の返事をしたのに、なおもあれこれと注文をつけたり、ぐつぐつ言ったりして登記関係書類等の持参日を明確にしないまま所用に託つけてその場を逃げ去ろうとする秋山の様子に接したことから本件土地持分の恐取等を確実にするためになされた脅迫であったと認められる」と判示し(同第六丁)ている。

しかし、ここでも伊藤が大声を出したのは、石岡信用金庫に対して担保として差し入れる約束を実行しないままに行先をくらましていた上に、さらにこの時点に到ってもそれを実行しないで帰ろうとする事に腹を立てたものである。

その為に(担保設定の話し合いが主たる目的であるが為に)担保権者たる信用金庫を使っているものである。

控訴審判決も右の点を見落して、あたかも伊藤が自分の為に権利移転させるが為に大声を出したと認定してしまっている。

(ハ)伊藤が河野と共謀していない事についても控訴趣意書の通りである。

これについて同判決書は

「被告人伊藤においては近く秋山が姿を現わすものと判断し、被告人河野にその旨話して「全面降伏」要求すべきことを指示して」と判示している。

しかし、伊藤と河野が秋山武雄と面会した時、秋山が姿を現わすという事は考えられない状態だった。

何カ月も行先不明となり姿を隠していた者に対し特別な条件もないのに、その者の出現を期待する事は経験則に反し且当時、面会の目的は河野の手形が振込まれた事の処理が目的であって伊藤の件は、何等話し合う状況ではなかった。仮に伊藤が武雄を通じて武久と自分の共有物の話をしようと思っていたとすれば、もっと早い時期に武雄と会っていたはずである。

伊藤は秋山との件を武雄を通じて話し合う意志をも持っていない事は経過からも明らかであった。

従って、右判決も容易な確定と言える。

(ニ)右の通り控訴審判決もすべての点において確定を誤っている。

三、土渕孝次郎については控訴趣意書の通りであり原審は重大な誤認をしている。

以上

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